田村薬草農場グループ

わたしたちの歩み

2024年12月18日

第9章 『新たな展望』

牛での色々な活動の合間、馬などをよく診ている獣医師、K先生(以前東北大・S先生からご紹介頂いた方だ)から面白い情報が入る。

馬での事例で、年は8歳、食欲はあるのにすっかり痩せてしまって、ついには立てなくなってしまった馬がいたそうだ。聴診器を当てれば心臓に雑音が入り、僧坊弁閉塞不全症を疑う事例である。以前より通常治療を行ってはいたが、改善が見られず、残り数日の命との見立てだった。

馬にとって『立てない』と言う事は致命的である。歩く事で足先から血液を心臓に戻し、心臓から再び全身に送り出す。この循環が成立しなくなると、血液が上手く巡らず、栄養が行き渡らなくなってしまう。競馬の世界などでも、レース中骨折してしまった馬を安楽死させる事が知られているが、それほど重要な問題なのである。

 

 

K先生は手元にあった甘草のことを思い出し、挑戦してみよう、そう思って通常治療と併用して使ってみる事にしたのだ。

結果は驚くべきであった。食欲相応に太り始め、立ち上がり、歩けるようになったのだ。その内心臓の雑音も消え、毛足も揃い、数ヶ月後には乗馬馬として再び活躍出来るようになっていた。

その話を聞いた私は、心底驚いた。甘草について様々な知見を集めており、役立つ場面が多い事は知っていた。が、こんな事例は初めて聞いた。

「先生、これは甘草のお陰なんでしょうか?」

先生は困った顔で答えた。

「いや、分かりません」

そう答えざるを得ないのも分かる話だ。今回の事例の場合はかなり特殊で、何故体調が悪かったのか、何故治療が効果が薄かったのか、何故状態が改善したのか、判別できない事が多すぎたのだ。

また臨床事例では多く付きまとう話ではあるが、これまでの治療があったから改善する事が出来た、という可能性もある。

K先生は、科学者である。あまりに不確かな情報の元に効いた、効かないと結論を出す事は出来ないのは当然である。

しかし先生なりに手応えはあったようで、更なる事例を作ってくれる事となる。

 

動物の世界でも、湿疹という物がある。馬の場合、毛が抜け、皮膚もボロボロになってしまう。秋頃から冬にかけて発生しやすいものだ。

原因が多岐に渡り、臨床では特定が難しい。今回の事例も度々出るものの、対策が困難な例であった。

免疫反応の異常であるから、とK先生がこれまた思い当たり免疫を抑える甘草を使ってみる事にした。

結論から言えば、誰も思いもしなかった反応となった。一週間程で湿疹が治まり始めたのだ。

 

図:皮膚が戻り始め、毛も生え始めた。

全くもって、説明が付かない現象である。血液成分も確認したが、給与前は多少の異常が見られたものが給与後には健康的な範囲に収まった程度の変化である。

現場の声が聞きたいと、K先生に無理を言って乗馬クラブへ顔を出させてもらう事にした。

そこの主、Sさん。私の息子とほとんど変わらない年齢の彼との出会いは、その後の展開にとってとても重要な意味を持つ事になってくるが、この時はまだ気付いていない。